わたしは悪性リンパ腫経験者です。
ことしの夏の検診を最期に、もうこれ以降受診は必要ないということになり、がんを「卒業」しました。
この14年間、
がんを手放すために
いろんなことを考え、
いろんなことをやり、
いろんなことをやめて、
いろんなことを変えました。
そんななかで、わたしが退院後にはじめた一番最初のこと、の話です。
実は、夫の父母、わたしにとっての義父母も、ふたりともがん経験者です。
義母は乳がん。
義父は喉頭がん。
とくに義父は、発覚したときには末期も末期で、できることはなにもないといわれ、放射線だけあててもらって退院させられたという経緯があります。
その義父は現在84歳。
末期がんの宣告から、なんと二十年以上を過ごしてきています。
びっくりですよ。
「医療にみはなされた末期がん患者」だったはずなのに。
母も、片方の乳房を切除してはいますが、いまも健在です。
20年以上前、夫につれられてはじめて実家へ遊びに行ったときにはすでにふたりとも病後でしたが、きちんと病と向き合い、勉強し、実践し、夫婦ともにおたがいの存在を大切に病をのりこえてきた姿を見て、わたしはこころからふたりを尊敬していました。
奇しくも、その後「嫁」という立場になったわたしが、がんを患います。
2歳になる息子と、帝王切開で産んだばかりの娘を義父母と義姉に預け、9ヶ月ちかく入院。
ひたすら抗がん剤による治療をしていました。
退院後、抗がん剤の影響により体力の衰えは著しく、半年間は自分の実家で静養。
翌年の春になってはじめて、自宅にもどりました。
当然、夫の実家へあいさつへ行きます。
嫁としては、実に面目ない状況。
恥ずかしさと申し訳なさとで身の縮む思いでいました。
そのとき、義父が言ってくれたこと、いまでも忘れられません。
「病は気から」とはよく言ったものでね。
笑ってまいにち生きていけばいいんだよ。
笑っていると、人間のからだの免疫機能は活発にはたらく。
免疫があがれば、がんだってやっつけられる。
だから、笑っていれば大丈夫。
その横で義母がつづけました。
そうは言っても、こんなにつらい経験をしたのに、笑うなんて無理よねえ。
ほんとうに笑う必要はないの。
人間の脳は、自分たちで思っているよりずっと単純で、口角がぎゅっとあがっているとそれだけで、笑ってなくても「笑っている」と勘違いするんですって。
だから、いまは笑うことなんてできないでしょうから、口角だけこう、きゅっとあげて、ねえ。
そう言ってにこっとわらって、両手の人差し指できゅっと自分の口角を上げる真似をしてくれました。
もう、なみだがとまりませんでした。
わたしの頭はまだこのときも病のことを整理できていなくて、さらにこれからはじまる、病と向き合っていかなければならない生活のことで混乱していて。
でも、同じ病で苦しみながら、それを受け止めてのみこんで、乗り越えてきた義父母のことば。とにかくなにかとっても大事なことを教えてもらったことだけはわかりました。
食事養生
ヨガ
お灸
足湯
呼吸法・・・
この14年間、いろいろ自分なりに勉強し、手を動かして実践してきたさきに、この夏の「卒業」がある。
そして、これらすべての原点に、義父母にかけてもらったこのときの言葉があります。
まず笑うこと。
笑う気持ちになれなかったら、なれないままでいい。
ただただ、口角をぎゅっとあげてみること。
からだがこころに作用する。
からだが変わればこころも変わる。
そこからすべてがじわりと動き出してくれたのだったと、いまになって思います。